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川崎病に罹った娘

投稿日:2007/03/04

丁度去年の今頃の話・・・

 ある日、娘が耳下腺の辺りの腫れを主症状とし、一時的な高熱とその後の微熱。流行性耳下腺炎(いわゆるおたふく風邪)の疑いが強く、小児科を受診した。小児科では、私の思ったとおりの診断。

 耳下腺の腫れはある程度軽減したかのように思えたが、発見後1週間が経っても完治せず。娘は倦怠感を訴え、元気がない。なかなか治らないとは思ったが、他の疾患とは疑いもせず、暢気に様子を見る私。

 少しは元気になったある日、両眼球に綺麗で美しい充血。こんなに綺麗に充血するのは初めてだったと記憶している。今思い返してみれば、なんと無知だったのかと思うが、その時、以前から家にある抗菌点眼薬を使用し、これで改善するだろうと高をくくった。

 微熱が続き、娘はやや元気のない状態が続く。私は、仕事に行かなくてはならないので、子どもを親に預けて、出勤。

仕事帰りの夕方、父親から電話が入る。


「川崎病かもしれへんっていわれたぞ!!」


 父に娘を預けたその日、娘は両足がひどく腫れあがり、歩く事さえ困難になったそうで、父が気を利かせて、町の診療所に連れて行ってくれたのだ。
 私は、その病気の名前だけを聞いても、看護学校時代に軽く勉強したくらいで、その後その疾患に接触する機会もなく、ほとんどどのようなものか忘れていた。ただ、「川崎病」という特異な病名を聞いただけで、簡単な疾患でないということは直ぐに感じた。

 帰って、文献とパソコンで疾患の詳細を調べる。調べれば調べるほど、昔教科書で習った記憶が蘇った。

 青ざめると同時に、何故ここまで放置しておいたのかと、後悔の念がつよく一看護師としても、一人の親としても、自分自身を強く責めた。妻も、日頃子どもの病気に関しては、全て医療従事者の私に任せている故、余計に申し訳なく感じた。責任感だけではなく、わが子の命にかかわる可能性のあることがわかり、親から子どもを受けとり、必至に夜間小児救急に向かう。

診断は、
1)5日以上続く高熱(38℃以上) 
2)手足の先が赤くなりはれと発疹 (紅斑と硬性浮腫)  
3)両側の眼球結膜が充血し赤くなる 
4)口唇が赤くなり、いちご舌 
5)体全体に赤い発疹 
6)頸部リンパ節が腫れる

以上の6つの内、3.5程度のくすぶり方の川崎病と診断。
断定はしにくいが、2)と3)と6)に加えて、4)のいちご舌様のものも何となくみとめられることからその様に診断された。

「Dr.は、明日からγグロブリン治療をしましょうか。」との言葉。

しかし、私は
「症状が出てから、1週間以上経ちますし、治療が遅れたから後遺症が残ったかもしれないという後悔はしたくないです。お願いです。今から治療開始できませんでしょうか」と。

医師も、私の焦りの言葉をわかってくれたのか、多忙な病棟事情も汲みながらも、
「普通は、夜はしませんが、お父さんの気持ち、わかりました。」との返事。

感謝と同時に、今度はどのくらいγグロブリンが効くのかという不安が襲う。文献によると、γグロブリンが聞かない症例もあり、その際は、ステロイド治療をするという。また、再発例もわずかであるが認められており、γグロブリンが著効したとしても色々な不安が頭から消える事はなかった。

妻と二人交代で付き添う。朝には、発汗を認め、眼球からは、充血が完全に消え、歩行も可能となり、売店で買ってあげたアンパンマンのおもちゃで遊んでいる。

心が安らぐ瞬間である。

薬が著効し、機嫌も良くなり、当面の不安は消え去った。同時に、早くに対応してくれた医師にも感謝した。


教科書の上では、川崎病というものは、6つの症状のうち基本的には5つ以上の症状があった場合に川崎病と診断される。また、それ以外でも冠動脈に瘤が認められた場合にも診断が下るとされるが、実際に我が子がその様な状況になれば、

“死ぬの危険があるのか。死なないのか”

単純にその様な事ばかり考えるものである。幸い、色々な心配がありながらも、今のところ再発もなく、順調に経過しているが、このときに感じた私自身の気持ちを忘れないでおこうと心に誓った。

自分の子どもが川崎病に罹らなかったら、“たかが川崎病”と思っていたかもしれない。他人が川崎病に罹っても、

「大丈夫、γグロブリンが良く効くから」

と簡単に説明していただろう。
たとえ、少しの風邪でも、少しの怪我でも、少しの子どもの変化でも、親は死ぬほど心配するものであるという事を忘れてはならない。

精神科疾患とて同様。家族が、心配する気持ち、動揺する気持ち・・・。これは、当事者である当人と家族にしかわからない。
看護する立場である我々は、その苦しみをいかにして感じ取るか。そして、相手がどのようにすれば、少しでも安らげるのか、次へのステップの力となりうるのかを考えて行きたいものである。

私が、その様な気持ちであることの大切さを強く感じさせられたのは、恥ずかしながら、
“我が子が病気になった時”
であったことは、包み隠さず伝えておきたい。

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