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朝青龍問題に関連させて、精神科医 香山リカ氏のコメントを考える
連日の朝青龍問題。政治的・興行的憶測まで飛び交っていますが、TVなどでコメントされている精神科医 香山リカ氏のコメントを載せている記事が気になったので、そこの触れてみたいと思います。
最初にこれを見ていただいて
連日、新たな展開を見せる朝青龍問題。そのなかで、コメンテーターとしても有名な精神科医 香山リカ氏のコメントを見つけた。やや気になる内容であったので、触れておきたい。以下、8月22日付 毎日新聞に掲載の内容である。
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朝青龍は“心の病”か=精神科医・香山リカ
記事:毎日新聞社
提供:毎日新聞社
【2007年8月22日】
私の確言:朝青龍は“心の病”か=精神科医・香山リカ
◇「謝罪・反省」で解決できる
昨年、五木寛之氏の講演を聴く機会があった。五木氏は、担当の若い編集者の中に心療内科や精神科を受診している人が少なくないことに驚く、と言って、「それは本当にうつ病なのだろうか。仕事をやる気がしない、むなしい、というのは誰にでもあることなのではないか」となんでも“心の病”にしてしまう風潮に疑問を投げかけていた。
私も五木氏の見解に全面的に賛成する。誰もが気軽に心の専門医のもとを訪れるようになったのはよいことだが、ふと「従来であれば、これは医療が解決する問題ではなかったのでは」と思ってしまう場面も少なからずある。
今回の朝青龍の一件も、まさにそれと同じだ。夏巡業に参加せずに、からだの不調を理由にモンゴルに帰ってサッカーに興じた。これが横綱としては許されないことは確かだ。相撲協会の処分は厳しいもので、当然、本人は大きなショックを受けただろう。
しかし全体としては、きちんと謝罪して処分を粛々と受け、心を入れ替えてまた一から出直す、といった常識的なプロセスで解決がつく問題だったのではないだろうか。横綱の強さは誰もが認めるところであり、引退まで望んでいる人はほとんどいないはずだ。
ところが、相撲協会の処分が決定するや否や、コメント発表や記者会見の前に朝青龍がやったのは、精神科医の診察を受けることであった。しかも、精神科医はひとりではなく、病名もバラバラ。とはいえ、「彼は治療が必要な“心の病”です」といったん専門医が言えば、あとは誰も何も言えなくなってしまう。
もし、私が診察を要請されたらどうしただろう、と頭の中でシミュレーションをしてみる。落ち込んでいる横綱を前に、「これは病気ではなくて、一時的にショックを受けているだけですよ。自分で次の一歩を踏み出しましょう」などと言えただろうか。それとも、やっぱり彼をバッシングから守るためにも、何らかの病名をつけた診断書を書いただろうか。
本当に横綱が医学的にもきちんとしたケアが必要な状態であるのだとすれば、早急に適切な環境で治療を開始すべきだ。しかし、もし「ひどいショックを受けている」という程度であるなら、精神科医には「いや、ここは私たちの出る幕でありませんよ」と言う勇気も必要だ。心の病はたしかに存在するが、すべての不安や落ち込みがうつ病やストレス障害というわけではないのだ。そのことを医療者も一般の人たちも、忘れるべきではないだろう。
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以上が、精神科医 香山リカ氏のコメントである。
香山氏の意見が毎日新聞にそのまま反映されているとの前提で私が意見を述べるのだが、
さて、ここで気になるのがこの記事の見出。
朝青龍は、「心の病か」
と、記事の見出しが付けられている。
だいいち、精神科医が「心の病」に線引きをつけようとしていること自体に、私は“???”と思わざるを得ないし、おまけに「私の確言」という言葉まで付け加えている。つまり、疑いを持つというよりも香山氏自身は「心の病ではない」と言っているのだ。さらに記事を見ると
◇「謝罪・反省」で解決できる
との見解。
朝青龍が、このような状況になる前にそのような対処を取っていたのであれば、それも可能だったであろうが、現状で謝罪・反省をすることで朝青龍本人の体の問題を含めて、解決すると言っているのであれば精神科医としては恥ずべき発言である。
毎日新聞と、香山氏の間にどのようなやり取りがあったのかわからないが、新聞記事に目を向けてもらうには、大衆受けする意見を書かなくてはならないという前提がある。確かに今は朝青龍へのバッシングが一番メディアうけをする。実際世論の大半がそうだ。しかし、精神科医として真剣にジャッジするのであれば、この記事は素人にもほどがある。
そこに、
「なんでも“心の病”にしてしまう風潮に疑問を投げかけていた。
私も五木氏の見解に全面的に賛成する。誰もが気軽に心の専門医のもとを訪れるようになったのはよいことだが、ふと「従来であれば、これは医療が解決する問題ではなかったのでは」と思ってしまう場面も少なからずある。」
と香山氏の意見。
非常に残念である。
精神的に追い込まれている人は、医療が必要かどうかの判断ができないから、少なくともその人は医療が必要だと思っているから受診するのであって、その判断は精神科医であるあなたが診察をして説明してあげればよい。ただそれだけのことであろう。
精神科でなくても同じことではないか。病院に行ってみれば異常がなかったというのはよくある話である。精神科だけ自分で異常かどうかを判断し、具体的な診断だけを受けに行く、そんなおかしな病院がどこにあろうか。精神科はどれだけ横柄な科なのかと揶揄したくなるほどである。
むしろ、その人はその人なりに真剣に悩んで、精神科の医療を必要として受診するのであるから、投薬をしないまでも、いくらかのカウンセリングは必要であることには違いない。カウンセリングといっても、専門的に介入するレベルから、軽く話をして安心させてあげるレベルまで様々であることはいうまでもない。
香山氏は、今回の朝青龍問題を語るにあたって、まずそこからつまづいている。
そして、この記事に書かれている五木氏の述べているのは、まさに「精神論」。
「それは本当にうつ病なのだろうか。仕事をやる気がしない、むなしい、というのは誰にでもあることなのではないか」
このように、精神科疾患であるかないかを境目として判断し、人と関わろうとするのは思わしくない。今の世の中、各個人にそのような理解を求めるのは困難であるが、講演をする人間がそのように言い、そして香山氏が肯定しているとすれば、まさに現状の精神科医療の未熟さを見せつけているようなものだ。
この人は、うつ病、この人は解離性障害などといって人と関わっているとしたら完全にナンセンスである。目の前の人と真剣に向き合い、時には厳しく時には相手のことを思いやって、関わっておればその人への対応の強弱は見えてくるはずである。そこに薬物治療をしているかどうかは、あくまでも付属的なもので“あえて”探るべきものではない。
そして、今回の朝青龍の一件も、まさにそれと同じだ。といっているあたりを考えてもらえれば、これ以上私が言うこともなかろう。
このうえ、私が前回の記事で危惧していた
「各医師の診断名が違う」ことの誤解を恐れるということに対して、
香山氏は
「診断名がバラバラ」
と表現した。私は、今回の事は、医療従事者以外(視聴者など)に誤解されることを恐れていたわけであるが、精神科医である香山氏がそのように解釈し、表現したことは驚きと同時に呆れるばかりである。香山氏は自分が治療を依頼されたときを考えて、以下のように述べた。
「もし、私が診察を要請されたらどうしただろう、と頭の中でシミュレーションをしてみる。落ち込んでいる横綱を前に、「これは病気ではなくて、一時的にショックを受けているだけですよ。自分で次の一歩を踏み出しましょう」などと言えただろうか。それとも、やっぱり彼をバッシングから守るためにも、何らかの病名をつけた診断書を書いただろうか。」
保身に張りるばかりではなく、カウンセリングという手段がこの説明の中では完全に抜け落ちている。とすれば、香山氏の精神科・神経疾患の治療は薬物療法だけなのかと、疑いたくもなる。
いずれにせよ、朝青龍の本当のところが不明であったとしても、それと真摯に向き合い診断を下し、治療方針(どこまで介入する必要があるかどうか、介入の必要の有無を含めて)を提案することが一人の医師としての義務ではないだろうか。そこで、実は何らかの意図をもった詐病(仮病)であったとしても、朝青龍の生き方とひいてはモンゴルの文化まで否定される事態に陥るだけでなのであるから。
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