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「申し訳ありませんが、あなたは吸引しないでください」
喉頭癌で、喉頭全摘出術後の患者。喉頭を摘出しているので言葉は出ない。コミュニケーションは、筆談。どちらかというと活字も苦手な患者である。筆談は出来るだけ文字の様子も再現してみる。
ある日私に、
「申しわけありませんが、あなたわ わたしの吸引をしないでください」と筆談で話をしてきた。
どういうことかよくわからなかった。もう一度聞きなおすと
「あなたの吸引わ、きつすぎる。一度出血するとなかなか止まらない。だから、次からわ、ほかの看護婦さんを呼んでしてください。越智さんは気を悪くしないでください。」
両手を合わせ拝みながら私に言う。
「大丈夫ですよー。次から、気をつけてしますよー。○○さんの様な人を見るの初めてだったから、へたくそだったんですよねー。次からは任せてください!」
精神科では、患者に個別で選別・拒否されるケースは日常茶飯事。自分の反省点を振り返るよい機会であるし、私的には慣れたもの。私は特に気にすることなくおちゃらけ半分、いつもの調子で言った。易出血も私の慣れない手技も原因ではあるが、他所へ転移していた癌が気管孔を狭くしており、粘膜もそれに伴って出血しやすくなっていたという事実もあった。
この患者は気難しいとは言われているが、普段私はそんな印象を持っていなかったので、コミュニケーションはスムーズに行くと思った。ところが、患者は、ゆっくりとメモ帳にメモを取り始めた
「あなたには、次があっても、わたしにわ命がけなんです」
また、両手を合わせて拝むように私に頼み込む。私は、大きな衝撃を受けた気がした。思いもよらない感覚を呼び起こされたような気分だった。
また、気を遣って「どうか気にしにしないでください」と書く。さらには、「もっと吸引のへたくそな女の看護婦さんもいます」などと書き、これでもかというほどの気遣いを見せる。
これは、数週間前の出来事であるが、この時、今までの自分に無かった感覚を刷り込まれた気がしたこの感覚を言葉として残しておく。
※患者がケアに対して拒否をするときは、自らのケアを受け入れさせることを最優先してはならない。まず、何故拒否しているかを深く考察することが真の患者理解に繋がる。
単に拒否の理由を聞くこと・知ることが患者理解ということではなく、その理由にある患者の置かれた立場を根本から振り返り考え直すことが患者理解への早道なのである
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