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パラダイムシフト―創傷治療の最前線にみる精神科医療の類似点―
今日のお話は、是非参考にしていただきたいと思います。話は長くなりますが看護師なら絶対に知っておくべき知識です。
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今回、何より紹介したいのがこの本。
「傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学」 夏井睦:著
たまたま夏井睦(なついまこと)先生の本を数冊よみ、わかったような気持ちになっている私のようなものが、皮膚の創傷治療に関して要約したことを伝えることは、いささか危険であるとは思いながらも、あまりにも共感する部分が多すぎたためここで紹介することにした。
まず、このような無知な者がここで本の紹介をするということを、夏井先生にお詫び申し上げたい。
では早速、この本を読み、感動したことや共感したこと、そしてなにより今の精神科医療の問題とまったく同じであると思ったことを述べていきたい。
1、皮膚創傷(怪我、熱傷、褥瘡等)についてのエビデンスに基づいた湿潤療法について
2、天動説と地動説を例にとったパラダイムシフトという考え方
他も興味のそそる内容だが、なにより精神科医療も同じであると実感したのは、このあたりである。
私の気をつけなければならないことは、夏井先生が意図しないことを私が表現してしまうことである。ここでは私の見解はあくまでも参考までのものであり、確実な情報は、すべて夏井先生の頭の中であったり、書籍等にあるため、実際に確認いただくことをお勧めする。
まず、「パラダイム」という言葉について-
今回何度と出てくるのでの意味を説明しておく。
パラダイムとは、わかりやすいく言えば
「その時代の人々が皆、正しいと信じていたこと」
であると書いている。
そして、「パラダイムシフト」とは
「一つのパラダイムが次のパラダイムに置き換わる現象」の事を指す。
このパラダイムという言葉の理解を踏まえて、この本の中で印象に残ったことを私なりに要約して感想や考えを織り交ぜながら述べていきたいと思う。
夏井先生は、外傷・褥瘡・熱傷などは「湿潤治療」で治ると言っている。外傷や熱傷などにおいては、消毒は不要・軟膏の抗菌剤は不要・ソフラチュールやガーゼまで不要。むしろ、これらの手法は、人体に影響が強く治癒を遅らせるばかりだという。消毒が不要というのは放置という意味ではなく、十分に洗い流して異物を取り除き、そのうえで湿潤療法を施すというもの。
他にも、熱傷3度は自然治癒しないというパラダイムの話も面白い。
「植皮をしないと治らない、敗血症がおこってしまう」と言われた患者が、ラップ(あるいはプラスモイスト)にワセリンを縫って1週間(状況によっては7週間等の症例もあるがいずれにしても瘢痕拘縮なく綺麗に治癒)で治癒するなどといった症例である。
消毒は、タンパク質を破壊するものであり、人体の細胞も同様の性質のため破壊してしまう。消毒の時の痛みはそのためである。消毒は、必要なものだと我々は思っていたが、むしろそれが化膿させやすい環境を作っていたのだということ。原因は細菌が繁殖しやすい母地(血腫やナートに使用する絹糸など)があることであり、細菌が付着することそのものが化膿の原因でない。つまり、母地がある限り、消毒してもそこには届かないので意味はないし、母地がなければ、人体の免疫細胞が攻撃し、よほどのことがない限り化膿することはない。そう考えると、消毒そのものは免疫細胞や人体の細胞そのものを破壊してしまい、治癒しにくい環境を人間が作ってしまっていたことになる。
このように細菌が傷口に付着することが化膿の原因だというパラダイム。そして、そこから抜け出せない医療従事者。
夏井先生によると、創傷治療は専門医の担当するところではなく、内科医であっても精神科医であっても治療できる分野であると言っている。
よって、熱傷専門医など意味のないものはやめて、医学部時代から医師すべてが簡単に治療できるように教育していくほうがよほど効率的であると言っている。
結局のところ、
多くは白色ワセリンとラップ、あるいは夏井先生の考案したプラスモイストという製品で治療が可能だという結論に達する。裂傷などの縫合も選択肢の一つに過ぎず、裂傷=ナートというのも間違っている。
このように、創傷には消毒が当たり前だと、誰もが信じていたパラダイムに対して今起こっている現状。これまでの知識で治療してきた医師は、猛反発をして受け入れない。これは、パラダイムシフトの必然であると夏井先生は言う。
この、夏井先生の湿潤療法は医療業界に大きな変革をもたらしていくだろうが、パラダイムの存在は、皮膚創傷治療だけに限らない。
私が、NPOの活動の一環として訴え続けている「向精神薬の多剤大量併用療法」の問題にも同じことがいえる。患者の状況が良くならないにもかかわらず、単剤療法を否定し続ける現状、これまでの経験とプライドにどっぷりつかってそこから抜け出せないベテラン医師。
笠先生においても大学病院系の精神科治療のずさんさを述べているが、夏井先生も同様に皮膚創傷治療のパラダイムに浸かった大学病院系の問題をこの本で述べている。
つまり、権威やプライドや間違った上下関係が最新の医療技術の受け入れを阻んでおり、大学病院=最先端の治療という構図を成り立たなくさせているといえる。
向精神薬の多剤大量併用療法の問題と統合失調症などの誤診の問題、皮膚創傷治療の問題を一気に解決すれば医療費の大幅な削減になり、国家を救うことができる―といっても大げさではないように思う。そのためには、まず、これらの余計な医療費がどれだけかかっているのかのおおよその試算を出す必要があろう。
向精神薬の多剤大量併用療法と誤診の問題、皮膚創傷治療の湿潤療法がほぼ完全に浸透することができれば多くの人間が恩恵を受けることになる。ただし、直接的には不愉快な思いをすることになる人もいることは事実である。しかし、それはこれまで誤診や誤処方により人生が狂ってしまった患者や家族、間違った皮膚創傷治療により、瘢痕拘縮の末ADLが低下し、寝たきりになったり、あるいは熱傷で外見にコンプレックスをもつようになった人々の苦しみをみると、もはや比べるに足らない。
「不愉快な思いをする人」とは、ただ、これまでその治療方法を必死に支持し続けて自分の地位を守ろうとしてきた人たちや、プライドが気づ付くのが怖いだけの人たちのことである。
そう、
※精神科においても同様のパラダイムシフトが起こっているのである。
ただ、単剤治療や創傷治療が浸透することによって、1つだけ問題が起こりうる。
将来的な向精神薬の処方の見直しや、創傷治療の消毒薬の売れ行きの激減を予想し、製薬会社はいくらかダメージを受ける(淘汰される)ということである。そうなると当然、関連会社は、戦略の方向転換を余儀なくされるが、もし、単剤療法・湿潤治療を受け入れてしまえば、将来的に製薬会社の淘汰が起こってしまうからと、それを受け入れず現状の治療方法を継続し続けるというような発想はもはや通らないところまで来ている。
このように、医療も“人間と国家の連続体”であることはお分かりになったかと思うが、臨床でも目の前の患者に真剣に向き合いながら、視野を外部にまで広めてもらえばもっと
柔軟な看護ができるようになるのではないだろうか。
今回、この夏井睦先生の
「傷はぜったい消毒するな」
という本の概要をお話しさせてもらったが、ここですべてを説明することは難しいので、内容に関しては、実際に本を読んでみてほしい。
感想として
熱傷学会や褥瘡学会に喧嘩を売っているあたりも最高に面白かった。褥瘡の診断ツールであるDESIGN-Rについても言及しており、これそのものが間違いであるという話などは臨床で働いている私たちには何とも言えない感触を与えてくれた。これから褥瘡学会や、日本褥瘡学会認定師の存在、各病院の褥瘡委員会などの行方も気になる。
最後に、
私がここで述べたことよりももっともっとわかりやすく、かつ面白い書き方をしているので絶対に読む価値があることをお伝えしておく。
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