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最終話 -鍼灸の針が首に残って取れない-

投稿日:2008/11/02

今回の手術で、いろいろ体験することができました。これをただ運が悪いととらえるのか、ポジティブにとらえるのかは自分次第だと思います。確かにこれまでにない苦しみを味わったのは事実ですが、こうしてblogにのこして自分の記録とし、また、共感してくださる人がいるとするならば意味のあることですし、全くもって無駄であったとは言いにくいと思います。今回の記事はかなり長いのですが今回でこの話は完結します。あ、ひとつだけ雑学を・・・、鍼灸の針が折れることを専門用語で切鍼(せっしん)というようです。では本編へ。


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全身麻酔で意識を失った次の瞬間、 手術が終わり、手術室で手術台から病室のベッドに乗せ替えられる場面に切り替わった。




感触としては、意識が落ちて目を閉じた瞬間に手術が終わっていたという感じだ。そこには、時間経過の感覚はあるはずもなく。




手術室で病室のベッドに乗せられる時の、
「ドン」
という衝撃で目が覚めたわけだが、その瞬間、強烈な吐き気が襲ってきた。




朦朧(もうろう)とした状態で、
「あの・・・・、吐き気があるんですけど・・・・」



とりあえず、吐き気がすごい。
そこで医師(主治医ではない)がひと言


「吐いてくれてええよ」


「・・・・・」

まぁ、先生方も複数で交代しながら手術でお疲れになったんだろうが、



「いや、そうじゃなくて・・・。」


と思った。


「吐きたけりゃ吐いてるさ。でも、首は痛いし、出るものは出ないし、だから言ってるのに」



愚痴半分で思ったりもしたが、同時に医師独特の考えだなぁとも思った。しかし、吐き気と痛みなどの、しかも強烈なその苦痛が数分ごとに強くなってくるため、ゆっくり考えるどころか気分的には命懸けであった。




魚眼レンズで見ているような景色は、より一層その色を増し朦朧(もうろう)とした意識の中で手術の結果はどうだったのかと考えたり、手足は動くのか自分自身で確認してみたり。



目を開けると吐き気がするのでできる限り目をつぶるようにした。



ドタバタ騒がしい中ベッドで運ばれ自分の病室に着く。この頃にはいろいろな苦痛を感じるまでにしっかりしてきた。今思えば、それは、極度の苦痛を感じる始まりであったわけだが。

病室には、私の両親と姉、妻と親友がいた。安心したと同時に意識もしっかりしてきていろいろな感覚を覚えるようになる。





●「寒い」




といって、看護師さんに電気毛布をかけてもらったら、数分後には強烈な暑さに見舞われ、



「暑い」


と言って、電気毛布を取ってもらったら次の瞬間強烈な悪寒に見舞われ戦慄(ふるえ)が起こった。



この瞬間に思ったのが

「首まで布団をかけてほしい」

そう感じた。
といっても、布団は肩のわずかに数センチ下までしっかり布団はかけてくれていたし看護師さんの対応や家族の対応も何ら問題がない。



いや、そうではなく一つ一つのケアの意味と奥の深さ、患者さんの個別性と患者さんの立場に立った視点・・・

いつも自分が現場で何気なく患者に布団をかけているのを思い出して、

「今まで自分は患者の何を見ていたんだろうか」

現場で働く看護師としてそう思った。




恥ずかしい話だが、これまでは


・掛け布団をかければそれで終わり。


そう思っていたのかもしれない。
ところが、患者の状態によっては布団の掛け方も違うわけで、状況によって
・布団をかけないでほしい
・足だけ布団を
・腰まで
・胸まで
・首元まで掛け布団をかけてほしい。
・タオルケットがいい
理屈では当たり前だと思うし、議論しても格好のいいことは言えたのかもしれないが、実際はまったく恥ずかしい話で、患者さんにもそういう感覚があることをすっかり忘れていたのかもしれない。



●吐き気に関しても、
担当の看護師さんは

「吐き気はどうですか?」

と、気遣って聞いてくれる。他の症状についても事細かく聞いてくれる。
さすがに術後1時間くらいで翌朝(8時間ほど後の)のメニュー(パンにするのか米飯にするのか)を確認されたときは
「そりゃないで・・・。今、ほんまに苦しいんやから・・・」
とおもったが。ま、それはひとまず事務的なものでその時は仕方がなかったとして・・・。



そして、吐き気に対して
「ロピオンを点滴でいきますね」
すぐに看護師さんはそういって段取りをしに行ってくれた。


「よかった。点滴で少しは楽になるのかな」


極度の苦痛の中、一つでも苦痛の要素が取り除かれるのだと少し安心した。

が、

ロピオンがなかなか来ない。
看護師さんの段取りが遅いのか。
いや、そうではない。時間的にみると決して準備が遅いわけではないし、むしろ色々対応してくれている。

この時感じたのは、
患者さんというものは、ケアの一つ一つを一刻も早くやってもらいたいと思っている。1分1秒、この時間の経過が患者の苦痛を増大させ、不安を増大させている。
看護者は、患者がそういう苦痛と不安にさらされているということをこういうことを常に理解しようとする気持ちを持って対応しなければならない。

このように思った。


本当に苦しかった。
ロピオンが準備、投与されるまでの時間がこれほど長いものかと。患者側の身になってようやく感じ取ることができた。




●酸素はマスクで1分間に6リットル

健康体ならマスクをしてもさほど苦痛に感じないの“かも”しれないが、流量が多いためマスク内には風が起こり、自分の呼吸の温度とで強烈な圧迫感を覚える。

「カニューレにしてもらえませんか・・・・」

看護師さんも対応に困っていただろうが、呼吸困難よりも強烈な圧迫感で本当に苦しかった。呼吸困難はなかったので、妻や友人に言ってマスクを口元までずらしてもらい、酸素のおこぼれを吸うようにしていた。

苦しさを考慮してか、無理にわがままを聞いてくれ、カニューレに変えてくれたのだが鼻腔に強烈な圧の空気が送り込まれこれも馴染めず(当然なことだが、苦しさ余って無理を聞いてもらったんに今思えばとても恥ずかしい)。
幸い勝手にこのようなことをしてもサーチレーション(経皮的酸素飽和度)は98%もあったので、術後数時間で酸素は中止してもらうことができた。




そしてまた、強烈な寒さのあと、掛け布団で寒さが消え再び熱くなる(体温自体は38.5℃まであがっていた)。
布団をめくってもらうがまだ暑い。
親友に窓を開けてもらうと今度はまた震えが始まる。同時に窓の外の騒音が非常に苦痛になったので


「やっぱり閉めてくれ・・・・」








話が相当長くなったが、
術後、精神的にも身体的にもあらゆるものに敏感に(わずかな音にさえ)なっていたためか、自分からすれば苦痛だらけで、一つ一つの苦痛を少しでも減らしたいという状況であった。
しかし、援助者からすれば些細な訴えとしか感じ取れないわけで、これまでの自分なら
「それくらい我慢できるのになぁ」
そう思っていた。
だから、マスクを外そうとする患者さんにしても治療を守ることができない患者さんにしてもただ理解していないというだけではなく、そこには

※強烈な不安と苦痛がある

という前提で最善の方法を考えるよう努力し対応しなければならないのだと今更ながらに思った。


・首が痛い
・痛みから体位を変えることができない
・両こめかみが鉄パイプで殴られたように痛い (皮膚を貫いて頭蓋骨の表面にまで針のようなものを指して3点固定をしたため)
・これまでにない悪寒と震えと、逆に
・血栓予防の弾性ストッキングが強烈に締め付けられている感じがして苦しい
・酸素マスクの強烈な圧迫感
・家族や親友の話声が苦痛に感じる
・両前腕の筋肉に金属を差し込み固定しているかのような強烈な痛み



一つ一つがすべて苦しかった。



手術時間は6時間。
とはいえ他の手術に比べると軽いものだったのかもしれない。
そのような状況であっても、死ぬほど苦しかったのに、これ以上の苦しみがあるのか。自分では信じがたいが他の手術は内臓などに傷を加えるわけであるから、もっと苦しいであろうという事実は受け入れなくてはならない。だとすれば、これ以上の苦しみを受けている患者がいるにもかかわらず、淡々と業務をこなしていた自分は大きく反省しなくてはならない。





・話を聞いてほしいのか、何度も詰所に来る
・不定愁訴で何度も詰所に来る
・妄想であろうことをひたすらいう


精神科では、このようなことは日常茶飯事であるが、彼らにも耐え難い苦しみと不安があるということを理解しようとすれば、簡単にあしらって対応することもなくなるのかもしれない。

これまで4回にわたって鍼切による医療事故の経過を話してきたが、自分自身身をもって体験したことを自分で振り返るだけではなく、このblogを読んでくださっている医療従事者、患者さんの家族にも伝わればこれ以上のものはない。









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