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精神科に「退院支援施設」 障害者団体の愚考

投稿日:2006/08/19

8/18付け 読売新聞に

◎精神科に「退院支援施設」 入院患者減へ厚労省計画 障害者団体は反発◎

との記事が書かれていた。
記事の内容は、
日本は欧米諸国と比べて、精神科患者の入院比率が高い。医療費の負担にもなっており、その削減施策として考案されたのが、「退院支援施設」であるというもの。
具体的には、現存の入院病床を「退院支援施設」という名の生活訓練施設に変えようというもの。入院施設を20~60の入所施設にし昼間は訓練を行う。経営は病院と同じ医療法人が経営。医療スタッフは置かず、病院には通院させるというスタンスを取るという。標準利用期間は2~3年。病棟の改装には国からの補助金も出る。個室が条件ではあるが、病院の敷地外の新築に対しても補助金が出るという。

これに対して反発しているのが、NPO大阪精神医療人権センターである。
①「名目だけで入院患者が減っても、本当の退院にはならない。スタッフの手薄な施設に変えて、医療費を削減するだけだ」として、撤回を求めているとのこと。
また、②「病院の敷地内や直ぐそばの施設では、退院した実感をもてない。まして、病棟を模様替えしただけの施設では、病院に囲い込みが続くだけ。地域に行き場がなければ利用期間を決めても有名無実になる」と批判している。


私は、この団体に異議を唱える。この「退院支援施設」の施策に対して全てを受け入れているわけではないが、この団体の愚かな発想に疑問を持つ。新聞記事の言葉尻のみをとって批判する事は好きではないので、ホームページを拝見した。

ホームページには、2006年2月に人権センターニュースとして「地域移行型ホームを認めることは出来ません」という趣旨の文面があった。これがどこまで、4月末に自治体に示された「退院支援施設」との相関関係があるのかはわからないが、おそらく今年2月の時点で前もって国から“案”として提示されていたものだと考察する。

今回の新聞記事のコメントと、この2月の記事の主張を鑑みても、「退院支援施設」に対しての反対論としては非常に乏しいものがある。ましてや、NPOの法人格を取得している障害者団体という立場でありながらこれは短絡的。その思考は、まさに愚考である。


医療費の削減は、現在の日本の財政を見ても急務。内容を批判するなら、それ相応の具体策が必要である。ところが、2月の記事はお粗末なもの。抽象論でなら誰でも反対・主張は出来る。

冒頭にあげた新聞記事の①のコメントは、私には非常に矛盾があるように感じ取れる。センターの「スタッフの手薄な施設に変えて、医療費を削減するだけだ」という主張は、逆に考えれば、自立を促すには、看護師などの手厚い看護が必要との短絡的な知識が伺える。実際、今回の施策をそのまま受け入れることが、患者の社会復帰に直結するかというと流石に“NO”であるが、具体的案もなくただ単に批判するだけという形には賛成できない。

また、②のコメントの、「病院の敷地内や直ぐそばの施設では、退院した実感をもてない。まして、病棟を模様替えしただけの施設では、病院に囲い込みが続くだけ。地域に行き場がなければ利用期間を決めても有名無実になる」という批判も、腰が抜けそうになる思いだ。では、敷地外(私は、敷地外施設を批判をしているわけではない)にその施設をつくれば、実感できるのかということである。結局、退院支援施設として法人の管理下におかれる状況であるなら、結局同じ感想を持つ患者(利用者となるのか)がいるに違いない。よって、この批判も感情的・個人的感覚による批判で、なんら説得力がない。要は、病棟の模様替えであっても、それがどういう施設であるかを患者に十分納得させることと、スタッフにもその意識を持たせること。そして、意識だけではなく実際に退院へ向けた訓練がどのように行われるかがこの施策のポイントなのである。

今年二月の記事に、『「地域移行型ホーム」の設置の前になされるべきこと』として、その提案がされているが、これは「退院支援施設」の対価として提案されるべきことではなく、また別に国に対して立案・提起すべき問題といえる。

今回の国の施策は決して完全とはいえない。しかし、反対するにも根拠に欠ける。患者の電話一本を、記事として例に挙げている点も読者の感情を拾う為の卑怯な手法。NPO法人として存在するのであれば、批判ばかりではなく具体的な動きを見せるべき。私個人とはわけが違い、正論を主張すればいくらか動きはスムーズだろう。残念ながら、その団体にはまともな議論がでいる人間はいないようだが。


最後までご閲覧いただきありがとうございます。拙著本「精神科看護師、謀反」も看護の参考にしていただければ幸いです。