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看護師不足の原因はどこにあるのか

投稿日:2006/12/10

最近、ブログを後回しにしてしまう感があるのですが、自分なりに時間を割き、今日は読売新聞の社説を引用させていただいて、論評してみようと思います。
読売新聞12/7付けの社説『離職資格者の復帰促進が最善だ』と題して、診療報酬改定後の看護師不足について述べられていた。気になる部分を一部抜粋してまとめて述べてみたい。

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a,「潜在看護師」の復帰を促すことが最善の方策だろう。
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b,特に大学病院や都市部の大病院が、知名度の強みで例年の2~3倍も新卒看護師を確保した。
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c,大事なのは、看護師不足の本質を見誤らない事だ。出産や子育てを機に退職した後、復帰しない「潜在看護師」が55万人もいる。
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d,医療機関が看護師を、“使い捨て”にしてきた側面がある。長く働かない事を前提に、仕事と子育てを両立できるような環境をおろそかにしてきた。
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e,病院は新人の採用を嘆く前に、院内託児所を整備したり、子育て事情を汲んだ多様な勤務形態を用意するなど、看護師を長く定着させ、潜在看護師を引き戻す努力も必要だろう。
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f,潜在看護師が1割復帰すれば、新卒看護師の数と同じ5万人になる。2割が復帰すれば、看護体制を手厚くできると同時に看護師不足も解消する。
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g,看護師が働きやすい病院は、女性医師も働きやすいはずだ。医師不足の改善にもつながる。医療にもっと女性の力を生かしたい。
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以上、気になる箇所をあげてみた。

 確かに、a,で述べているように、看護師不足の手っ取り早い解消方法は、潜在看護師の復帰を促す事かもしれない。だが、これは現実としての看護師不足を解消する方策としては、優先順位的に下位に位置する。まったく恥ずかしいのは、社説を書いた人間が、完全に問題の解決策に対する視点を素人同然の角度からしか見れていないということである。
 社説では、看護師不足の原因を、診療報酬の改定による大病院への集中と、潜在看護師の放置であるとの観点で述べている。確かにb,であるように、大病院からの新卒看護師の青田買いが集中し、例年の2~3倍の採用数を確保した事実があるが、これに続く事実があることも見逃してはならない。それは、看護師の離職率である。

『2004年度の日本看護協会の調査によると、一年以内の新卒看護師の離職率は全国平均で9.3%』

 多忙を極める大病院となると、その率は大幅に増加すると思われる。その点を考慮すると、今春大量採用された看護師を含め、今後早期退職する看護師は、必然的に増加する可能性は十分考えられる。そこを考慮すると、都心部の大病院への看護師の集中は、思うほど深刻な問題ではなく一時的。看護師の流動性は持続すると予測される。
 また、c,では「潜在看護師55万人」に着目しているが、その復帰しない原因を『育児・子育て事情』においているところに、大きな疑問を感じる。多くの病院は、保育所が整備されていたり、保育所がなくとも補助金がだされるなど、数々の病院の中で選択肢は十分にある。さらに、出産などで休職をしていても、大半の病院施設は看護師を退職へ追いやるなどという事はないし、仮に、家庭の事情から退職したとしても、看護師免許を持っておれば、公立系を望まないのであれば、再就職は比較的容易である。そのように見ると、社説で述べられている、潜在看護師の未復帰の原因は、そこには無いことがよくわかるはずだ。私は、

※「潜在看護師未復帰」の主たる要因は、各病院施設の自助努力の不足が原因ではなく、母子保健施策の改革着手の遅延にあると考えている。

ただ、看護師不足を解消するには、「潜在看護師」という一点で考えると非常に難しい。そこに看護師の定着率の増加や、NEETの問題も関連させて考える必要がある。一つきになるのは、

※今後景気が回復・上昇し続けたときの『潜在看護指数の増加』

である。男性看護師が増えたとはいえ、まだまだ女性のほうが圧倒的な数を占めている。つまり、結婚して、一度退職すれば次に働く理由となるのは、経済的理由か女性の向上心のどちらかがほとんどであろう、その様に考えた場合、

※景気が上向きになった市場で、出産などの理由から一度退職すれば『働く必要が無い』という状況が生じる可能性がある

私はそこを危惧している。もっとも、看護師という職種のやりがいを共に発掘し、提供する事が出来るような、看護師の定着率の上昇につなげられるような方策を模索する事が、看護師不足解消の一番の近道であるのかもしれない。
 残念ながら、この社説は、数字的計算はあっているかもしれないが、数字の計算の前に今、日本社会で起こっている“事実がどのようであるか”の計算は出来ていないようである。そして、今回の看護師不足という問題の社説に、なぜ、突然g,のようなフェミニズム的意見書き、最後でくくっているのかも私には理解し難い。また、看護師を“使い捨て”とも述べているが、一部の看護師は自らの意思での離職であり、社説で述べているように大半が使い捨て看護師であるような誤解した記事はやめるべきである。