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精神科救急の未熟さを知れ

投稿日:2007/05/14

今日は看護の日の出来事をお話したいのですが、残念ながら延期ということで。ちなみに、看護の人の出来事は、完全に「ネタ」ですよ。「ネタ」。それはまた時間があるときにそのお話はするとして、その前に精神科救急で起こった出来事を一つ・・・

 先日、友人から電話があり、友人の妻方の叔父が様子がおかしいとの連絡が入る。記憶が曖昧になり、わけのわからないことを言っているとのこと。その連絡は日中であったので、友人も精神科の看護師ということもあり念のため設備の整った総合病院へ向かった。基本的には脳血管疾患を疑っての話であった。

しかし、時間が経つにつれ様子は変化し、友人は私あてに

「これ・・・、俺の眼では、精神科の領域かもしれん・・・」とのmail。

症状をみると、MRIは撮影できず部屋から飛び出し、もともと普段暴言を吐くような叔父ではなかったのだが、暴言を吐き・・・。いつもは、やさしい叔父の変化に、友人とその妻も相当辛いようであった。

 一通り検査が終わって、主治医の話では、あとは、髄圧に問題がなければ今のところ異常はないであろうとのこと。結局、腰椎穿刺が終わり、結果は正常。

 友人が自宅にたどり着いたのは、18時を超えていただろうか。叔父は、独身だという事で、妻方の同居している家に一緒に帰ってきたとの事。それまでは、時々動いてボソボソと話し、動きを見せていた叔父は、この時点では、うつむいてしゃがみ込み、何も話さなくなったという。

「あかんわ。飯も水も口にしてくれへんわ・・・」

友人からこの一報が入ったのは、20時をまわっていただろうか。話し合ったが、やはり朝からみても症状は進行している。我々2人の仲で、病状が早く進行していることも踏まえて、翌朝まで待つという選択枝はまずありえなかった。

ここでどうしたらよいかということを話し合ったのだが、
1、知り合いである某病院の院長の相談して診察してもらう。
2、友人である院長に無理を言ってみてもらう。

まず、この2点から、動こうという話になる。

1の某病院の院長に連絡が取れたのは、21時頃。その日の当直は大学から派遣されている新米Dr.精神保健指定医ももってなく、薬物治療の判断は愚か、保護室入室の指示(一時的な意味を除く)や拘束の指示も出せない。しかも、距離がとてつもなく遠かったため、あきらめた。
次に2の手段であるが、出来るだけ無理は言いたくなかったのだが、相談したところ、快く受け入れてくれた。それを友人に電話で伝えた。

「ようやくなんとかなりそうやな」

確かに何とかなりそうな気がした。もちろん私は自宅から友人と連絡を取り合っていたので、その話が決まってようやく就寝できるかと安堵した。

 診察が終わったのが、23時頃であったことを記憶している。やはり、朝と比べて症状は進んでおり、入院させたほうが良いとの事。しかし、私や私の友人が多く働くその病院では、入院させづらいののではという院長のはからいから、精神科救急を呼んで、他院に入院してもらうのが賢明ではないかとのアドバイスをもらう。
 そこに、私も友人も異論はなく、友人は精神科救急の窓口でもある
「心の救急相談窓口」に電話をした。

・・・・・

・・・・・1時間以上繋がらず、友人は、何十回も電話をかけなおしたという。

1時間以上経過した頃、ようやく電話はつながり、どのような相談ができたのかと後できけば、どこの病院へ行くかはまだわからないが、まず、救急搬送を希望するかしないかの返事をせまられたとのこと。友人もわかってはいたのだが、いざ、当事者となり相談してみて感じた精神科救急の大きな欠陥である。

そう、
※夜間の精神科救急には、他科と同様の普通の外来はなく、入院前提の救急外来しか無いのである。

大阪府には、1千万人近い人口がいるというのに、一晩で緊急入院を受け入れる病院は、輪番制で充てられた高々数病院のみ。しかも、この広い土地で散発するであろう精神科患者の急変には到底対応できるはずがない。先に述べた、電話システムも非常に貧弱極まりない。

今の現状で、対応できているように見えるのは、精神科で救急を必要としている患者の多くが、

※問題が起こっていないから、翌朝以降まで診察せずに持ち越している

だけの事である。
救急で運ばれてくる患者のほとんどは、不安になり自分で救急車を呼んだ。もしくは錯乱状態か、またそれに類似する症状で警察に取り抑えられ、警察の判断で、精神科救急を呼び、入院してくるというケース。

 今回のケースは、友人が精神科の看護師ということもあり、たまたまスムーズ(といっても、丸一日を要したが)にいったが、普通であればどうすればいいかわからず、途方に暮れていたに違いない。ましてや、今はまだ精神科という領域に抵抗を感じている人は少なくなく、今、この瞬間にでも救急車を呼びたいけれど呼べない、そのような家族もいるはずである。

 精神科にも夜間気軽に受診できる救急外来を設置する必要がある。これは、早急に推し進めなければならない事案である。各精神科病院もそこに携わる医療従事者も、何か起こってから受診するのが医療ではないのは、わかっているはず。起こる前に、重症化する前に対応するという、他科では当たり前のことを精神科にも導入するだけのことである。他科に比べても精神科疾患の発病率は決して低くない。

 人事のように思っているあなたの周囲にも、次の瞬間起こり得るかもしれない。あなた自身が、不安で夜中に、今すぐにでも精神科に受診したくなることも充分にありえる。

 日本看護協会というものがあるように、精神科にもその団体はあり、また、各都道府県にも(全てにあるのかは確認できていない)別枠の精神科病院協会がある。本来は、それらの団体に属する病院同士が協力し合い、医療システムを含む医療全体を向上させるのが目的でありながら、そのような団体が、現状の精神科医療を大きく後退させているという事実は否めない。医師不足を原因とする評者もいるが、論点を履き違えているに他ならない。まずは、だれもが夜間外来を受診する事が出来るシステムの構築を目指す。そして、その次にその施設の増加に着手するのが手順というものだろう。

 この問題は、精神科医療システムのなかでも、早急に改善しなければならないものでありながら、今尚進展が見られない現状に、憤りと、それに関わる人間の怠慢と自分達の経営を優先しすぎる強欲さを感じる。
 この程度のシステムの構築はむつかしくないはずであるが、それを後回しにするくだらない“何か”がそこにはあるのだろう。今でも、精神科疾患に苦しみ夜の孤独の中で路頭に迷っている人がいるはずであるのに。

幸い、友人の叔父は、搬送先で薬物治療が奏功してか元の叔父に戻りつつあるとの事。すこしでも、医療システムの被害者を増やさない為に、出来るだけ早くのシステム構築に着手する必要がある。



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